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ごった煮
気が向いた時に更新する箸休め的SS放り込みBlog。 二次は腐ってたりアンチしてたりもするので注意されたし。
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2025/06/18 (Wed) 22:34
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2013/05/29 (Wed) 19:16

 ほんの偶然だった。
 月が真上に差し掛かる時刻、自分の縄張りより少し外れた場所にあるとある屋敷に、ギルドの依頼で荷物を運んだ帰り。
 夜に開く類の店がその看板をランプで照らして示し、静かに賑わう通りのその中を、グレンはのんびりと歩いていた。
 そこで丁度、通りに繋がる狭い路地から届いた小さな女性の悲鳴に気づいたのだ。

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 半ば気まぐれにそこに足を向けてみれば、そこには案の定、複数の男に絡まれている少女が一人。
 路地の奥の角を曲がった場所。通りから直接見えない位置のそこは、そういった眉を顰めるような如何わしい事を行うのに、非常に都合が良さそうだった。
 背にした月が作り出す影が彼らの足元まで延び、グレンの存在を教えた。当然ながら、突然現れた自分に一同は軽く驚く。
 その中の、助けを求めるように涙目で自分を見た少女の顔に、グレンは見覚えがあった。
 ウェーブ掛かった茶髪のその少女は、確か冒険者として同じギルドに登録している娘であり、近所にある雑貨屋の娘でもあった筈だ。ギルドでパーティを組んでいる仲間と歓談しているのをよく目にするし、実家の店番をしているのを偶に見かける事もある。
 グレンは腰に差していたやや長めの、しかしその長身には見合った長さの片手剣に手を掛けた。
 名前を知る程親しい訳では無いが、知り合いには違いない。こうして目にした以上、助けない訳にもいかなかった。
「……か弱い娘相手に、大の男が数人掛かりとは、穏やかではないな」
 そんな風に、悪人から女性を助けようとする人間が大昔から使い倒している台詞を言いながらスラリと剣を抜き放つ。片刃の剣が月の光を弾いてキラリと光った。
(三、四、――……五人)
 頭の中で少女を取り囲む男達の数を数える。多くはないが、少なくもない数だ。
 男達の格好はどこにでも居そうなありふれたものであり、その表情や態度からも粗雑さが拭い切れなかったが、しかしそれでいてどこか似通った、どこかで戦闘の訓練を受けたと分かる構えを取っていた。
 恐らく兵士崩れなのだろう。
 最後の戦争が終わって数十年。当代の皇王が和平政策を取っている事もあり、軍縮は年々進んでいる。暇を持て余した雑兵が兵舎を抜け出し、街に繰り出して悪さをするのは珍しい事ではなかった。
 少女がグレンに向かって叫ぶ。
「た、助けて下さ……むぐっ!」
 少女の口を、男の一人が慌てて押さえた。そうして他の面々がそれぞれ得物の剣を抜き、グレンへと刃先を向ける。
「兄ちゃん、痛い目に会いたくなけりゃ、邪魔しないでもらおうか」
「そうそう。俺らの相手をわざわざ取らなくても、アンタなら選り取り見取りなんだからさぁ」
 もはや悪役のそれとして使い古された台詞に、溜め息を吐く。
 確かに、スラリとした長身や夜であっても月の光を弾いて輝く金髪と蒼い瞳、そこそこ整った中性的な顔立ちなど、グレンの顔は大抵の女性が好むタイプのそれだった。
 しかし。
「……別に女に好かれたいとは思って……ない!」
 グレンは静かに、しかし怒りを込めた声でそう言って剣を逆刃に持ち替え、低い位置から素早く振り上げた。脅しの為に近寄ってきた一人が、剣の峰で強かに顎を打たれて昏倒する。
 速攻、しかもたった一撃で仲間が倒された事に、残りの四人は驚きつつもグレンが油断出来ない相手である事を悟ったらしい。互いに目線で合図を送りあい、少女を捕まえている一人を除いた三人で一斉にグレンに襲い掛かった。
 しかしグレンはその高い身長に見合わぬ素早さで三人の振る剣を弾き、流しながら合間を潜り抜け、少女の前へと辿り着く。
「なっ!?」
「遅い!」
 言うが早いか、グレンは少女を捕まえている男の顔面に、空いている左手で軽いジャブを喰らわせた。男が怯んだ隙に、その手で少女の腕を掴む。
「え、え?」
「じっとしていろ」
 戸惑う少女の腕を引き、グレンは自身の眼前にまで持ち上がったその手に唇を当てた。そのままべろりと舌を這わせる。
「ひょえっ!?」
 少女が驚きのあまり奇妙な悲鳴を上げるのと、顔面への衝撃から立ち直った男がお返しとばかりにグレンへその拳を振り上げたのは同時だった。
 しかし、男の拳がグレンへ届こうとしたその瞬間。
 グレンと、男の腕の中に居た少女の姿は、その路地から消えていた。
 一瞬にして二人の姿が消えたその事態に四人の男は戸惑い、しかし空ぶった拳に目を瞬いた男がハッと気づいて声を上げる。
「法印術(シール)だ! あの男、移動系の能力者だったんだ!」
 男の言葉に他の三人もハッとした。
 この世界には、特殊な能力を使う事の出来る人間が少なからず存在する。
 それらの人々には必ず体のどこかに紋様のような痣が存在している為、その能力の事を『法印術』と呼び、法印術を使う人間を一般的に『法印術士(シーラー)』――あるいは畏怖や嫌悪を持って『能力者』と呼ぶのだ。
 先程の金髪の男がそれであったのだと気づき、一同は思わず唸った。
「……探しますかい?」
 一人が訊ねる。
 しかし、顔面を殴られた男は首を振った。
「あの男の能力がどれ程か分からん以上、どこまで行ったか分からん。怪我人も居る以上、今日のところは諦めて戻るしかあるまいよ」
 言って、男は顔面を擦りながら最初に気絶させられた男を揺すり起こそうとした。しかし、気絶したその男は一向に起きず、男は仕方ないと舌打ちしつつ、意識の無い男を抱え上げてそのまま自身の背に担ぎ上げる。
 そうして男達は路地を出て、夜の街に紛れていったのだった。

「……大事無いか?」
 グレンは剣を鞘に納めつつ、地面にへたり込む茶髪の少女に訊ねた。
 一見した限りでは事に及ぶ前に思えたが、もし服のどこかが破けていたりするならば行き掛かった以上は上着くらいは貸してやらねばなるまいし、足を捻っていたりするならば肩くらいは貸してやらないでもない。
「あ……あの人たちは……?」
 少女は男達が居なくなった事に戸惑い、きょろりと周囲を見回した。
 二人が居たのは先程とよく似た、しかし別の路地だった。
「今頃向こうの路地で私達が居なくなった事に慌てているだろうさ」
 グレンは少女に手を差し伸べつつ、淡々と答える。
 その落ち着いた様子に、少女はある程度何が起こったか察したらしい。
「術士だったんですね」
「まあな。生憎と人ひとり抱えた状態の上、とっさではあまり遠くには飛べないが」
「いえ、十分です」
 言いながら少女はグレンの手を借りて、少しよろめきつつもしっかりと立ち上がった。
 そうしてグレンの手を離し、ペコリと頭を下げる。
「あの、ありがとうございました」
「気にしなくていい。――怪我は?」
「特には無いようです」
「そうか。だが、何故こんな所に?」
 どこに居ようと少女の勝手ではあるが、大抵の店は勿論、住民の多くも寝入っている時間である。
 この界隈にはこの時間帯でも開いている店は存在するが、その殆どが男性向けのいかがわしい店だ。年頃の少女が好んで通りたい場所ではない。
 そこまで考えて、ここから通りをふたつ程跨いだ所に、若い年代向けの酒場等が幾つか存在する事を思い出した。
 もしかしたらそこに行くか、あるいはそこから帰ろうとして、ここに迷い込んだのかもしれない。
 あるいは彼女もギルドに所属しているのだから、グレンのように依頼の関係で来た可能性もあるが。
 そこまで考えたところで、少女が気まずそうに呟いた。
「実は、ちょっと家出を……」
 家出。
 意外な単語が飛び出し、グレンは思わず眉を寄せた。
 年頃の少女の行動としては無い事でもないが、しかし。
(この子はもう、一人暮らしをしていた筈だが……)
 自立の為にギルドの近くに部屋を借りた、とつい先日ギルドの近くにある軽食屋で親しい仕事仲間に話していたのを覚えている。実家の店の手伝いは、手が空いた日にするのだと。
 一人暮らしは掃除が大変だの、食事を作るのが面倒だの、丁度近くの席で食事を取っていた一人暮らしのグレンは、少女の吐く愚痴にいちいち共感してしまい、食事を取りながらもうんうんと頷いてしまったくらいだ。
 そんなわけで結構覚えているし、それでなくとも記憶力は良い方だと自負している。
「……油虫でも出たのか?」
「へ?」
「一人暮らしなのに家を飛び出す理由なんて、それくらいだろう?」
「え……、ああそうそう、そうなんです!」
 こーんなデッカイのが出たんです、と少女は両手の親指と人差し指でネズミ程もある大げさな輪を作り、気まずそうに、そして僅かに警戒を込めた視線でグレンを見上げた。
「……というかアナタ、わたしの事を知ってるんですか?」
 見知らぬ相手が自分を知っている事を怪しんでいるのだろう。グレンはそれにあっさりと頷く。
「名前までは覚えていないが、同じギルドに登録してる子だろう?」
「ああ――ギルド、ギルドでね、なるほど……!」
 少女は合点が行った、と手を叩き、そうして何事かを考える素振りを見せた後、つつつ、とグレンに寄り、猫撫で声で告げた。
「あの~、助けて貰った上で申し訳ないんですけど……」
「何だ?」
「同じギルドのよしみで、一晩アナタの家に泊めて貰えないでしょうか?」
「………」
 さすがに殆ど初対面とも言える相手に対して少々厚かましすぎるだろうとも思ったが、少女は先程暴漢に襲われたばかりである。本当に部屋に油虫が出たのかどうかはともかく、襲われた直後なのだから心細いのは確かだろう。それに同じギルドに所属している人間なら、少し調べれば素性も分かる。それがこんな頼み事が出来る安心感に繋がっているのだろう。
 グレンは溜め息を一つ吐いて、「一晩だけだぞ」と少女の宿泊を認めた。
 少女はその返答に喜色を浮かべ、しかしはたと何かに気づいたらしく、焦りながら告げる。
「あ、宿代はちゃんとお金で払いますから、身体でっていうのは無しですよ?」
 その言葉に、グレンは再び溜め息を吐いた。
「………女に興味は無い」
「え、そういえばさっきも……、という事はアナタ――」
 その言葉をどう受け取ったのか若干距離を置こうとする少女を見て、ああこれは彼女も勘違いしているな、とグレンは更に溜め息を吐いた。三度目のそれは少し長く、そして重いものだった。
 しかし、わざわざ勘違いを訂正する気はあまり起きない。グレンにとってそれは日常的な事であり、いちいち訂正するのももはや面倒になっていたからだ。
「……グレンだ」
「え?」
「グレン・シラス――お前と同じくギルド《マデリン・レビゾーラ》に所属している運び屋だ。『アナタ』では無い」
 言って、それ以上何も言う気は無いとばかりに口を閉ざす。
 自分から申告して、わざわざ傷つく事も無いだろうと思った。
 どうせ相手は一晩屋根を貸すだけの相手であり、グレンの請け負う仕事の多くが単独でこなすものである以上、以後は今まで通り関わる事も無いだろう。もしこれから関わる機会があるなら、その時に訂正すれば良いだけの事だ。
 実家が商店という事で、娘から話を聞いた親がこれから先仕事の際にグレンを贔屓にしてくれる可能性もあるが、地域密着型の雑貨屋程度の店が、わざわざ金の掛かるギルドに仕事を依頼する事など滅多に無いので期待するだけ無駄だろう。
「グレンさんですね。それでは一晩お世話になります」
 少女は再びぺこりと頭を下げた後、アパートへと戻るグレンの後ろを付いていった。



 窓から差し込む朝日の光と、鼻腔を擽る美味しそうなコンソメの香りに、グレンは目を覚ました。
 横たわっている場所の触感に違和感を感じ、むくりと起き上がってゆっくりと周囲を確認する。グレンが居たのは確かに自分が借りている部屋であったが、横たわっていた場所は何故か寝室の寝台では無く、居間のソファであった。しかもいつもシャツの上に着込んでいる皮の胸当てすら着けたままだ。その為か、眠った筈なのに疲れが殆ど取れた気がしなかった。
 はて、と首を傾げる。
 何故か昨夜の自分はこんな格好のまま、風呂に入るどころか寝台にも入らずに寝入ってしまったらしい。
 よほど疲れていたんだろうな、と軽く伸びをしてから毛布代わりか体の上に掛けてあった外套を掴み、内ポケットに財布が入っている事を確認して袖を通す。
 どこか近くの部屋から漂ってきているらしい料理の香りに、先程からグレンの胃袋も堪らず反応して空腹を訴えていた。
 しかし疲れが抜けきらない身体で何か作るのも面倒なので、外に買いに行く事にする。
 まだボーっとする頭を軽く振り、つっかけのサンダルを履いてアパートを出た。
 近所のパン屋は小さいながらも中々の味と評判で、特に惣菜系のパンには定評がある。グレンはお気に入りであり、店の商品でも特に人気の高いカボチャ餡のパンと、日持ちのする硬めのバケットを一本買い、そのまま別の店に寄って無くなりかけていたジャムや果物の瓶詰めを買った後、部屋に戻った。
「あ、お帰りなさい」
 茶髪の可愛らしい少女が台所からひょいと顔を出し、グレンを出迎える。
「うん、ただいま……」
「どこへ行ってたんですか?」
「朝食、買いに」
「えっ、朝食勝手に作っちゃったんですけど……」
「ん、じゃあそっちを食べようかな……こっちは昼食にして……」
「暖かい方が美味しいですし、そうして下さい。あ、冷蔵庫の野菜使っちゃったんですけど、大丈夫でしたか?」
「ああ、うん、問題ない……」
「そうですか。じゃあお茶を入れますから、座って待ってて下さい」
「ありがとう………………ん?」
 ソファに促されて座ったところで、起き抜けであまり働かない頭が異常を訴えた。
 一人暮らしのグレンの家に、グレン以外の人間が居る筈が無い。
 グレンの前にカップを置いて琥珀色の液体を注いでいく少女に、そのまま疑問を口にする。
「……お前は、誰だ?」
 少女はその言葉にぽかんと目を見開き、「昨日助けて貰った者ですけど」と少し戸惑いつつ答えた。それでようやく、グレンは昨晩の出来事を思い出す。
「……ああ!」
 ぽん、と手を叩くグレンを見て、少女はどういう事か理解してクスリと笑った。
「忘れてたんですね?」
「あはは……」
 笑いながらお茶を口にしたグレンは、その味に軽く驚く。
 少女の淹れてくれたお茶は、いつも飲んでいるものと同じ茶葉を使っている筈なのに段違いに美味しかった。どうやら彼女はお茶を淹れるのがとても上手いらしい。
「昨日は疲れていたみたいですし、仕方ないかもしれませんね。何しろ部屋に入ってすぐ、そこのソファに座ったところで倒れるように眠ってしまいましたし」
 その言葉で、グレンは今朝ソファで目覚めた事を思い出す。
 自分ではそれほど疲れていた覚えは無いし、ソファに座った時も眠いとは感じていなかった筈だが、現に眠ってしまっていた以上はそうなのだろう。
 少女はまだ笑いを残しつつ、キッチンから料理を運んで来た。タマネギの入ったコンソメスープや温野菜のサラダ、麦と豆が入った粥等が次々とテーブルに並んでいく。どうやらグレンを起こした香りはこれらのものらしい。どれも簡単なものだったが、その味は中々のものだった。グレンは少女の料理の腕を褒め、お代わりまでした。
 そうして満腹になった頃、頭の隅々まで栄養が行き渡ったグレンは、少女について重要かつ奇妙な事を思い出したのだった。
 食器を洗おうとしていた少女に出来るだけ自然に声を掛け、微笑みさえ浮かべながら向かいのソファに座るよう促す。
「何か?」
 首を傾げる少女に、グレンは笑みを消して単刀直入に訊ねた。
「改めて聞くんだが……『お前』は、誰だ?」
「え……、あの、先程も言ったように――」
「助けた相手である事は分かっている。だが、お前は昨日、私と同じギルドに所属している人間である事を認めたな?」
「ええ……そうですけど………?」
「私が知っているお前は、同じギルドに所属している、雑貨屋の一人娘の筈なんだが……――」
 床に置いたままの、紙袋に入ったジャムと果物の瓶詰めにちらりと視線を走らせ、未だ胸中に残る戸惑いに一拍を置いた後、グレンは意を決して告げた。
「先程その店で買い物をした時、お前と同じ姿の少女が店番をしていた」
「!」
 少女の目が見開かれる。
「マデリン・レビゾーラは法印術士のみが所属する事を許されるギルドだが、私の記憶が正しければ『お前』は風を操る術士である筈だし、そもそも現在、幻術や分身、変身系の術士は登録されて居ない筈だ。ついでに言うなら、私がお前の顔見知りと言ったからか、昨日から名前を名乗るのを妙に避けているだろう? それが彼女の名前を知らないからだと考えれば納得出来るんだ」
「………っ」
「……もう一度改めて訊くが――お前は誰だ?」
 淡々と訊ねながらも、グレンは胸当ての内側に仕込んだ投げナイフをいつでも抜き出せるように警戒していた。疑いなく平らげてしまったものの、作られた朝食は二人で食べたし、どれも取り分けて食べるもので、毒を仕込む事は難しい。皿に分ける時も、特に何かを入れたような動作は無かった筈だ。少女にグレンを害する意図は今のところ無いように思える。しかし、この質問によって逆上して刃を向ける可能性はあるだろう。
 壁に掛けられた時計の秒針がカチカチと動く音が、静かに部屋に響く。九十度分程動いたところで、少女はゆっくりと溜め息を吐いた。
「……まさか、彼女の家がここの近所だったとは……」
 彼女が居た場所から遠いから油断していました、と呟くように告げる。
 少女のその姿が、他人の変装である事を認める台詞だ。観念したという事だろう。
 しかしわざわざ雑貨屋の娘に変装する少女の意図が読めず、警戒を解かないグレンに少女は軽く笑い、自身の胸に手を当てた。
 途端、少女の姿が歪む。
 瞬き程の間に、ふわりと波打つ茶髪を持つ少女だった者は、胸元までまっすぐ伸びる黒い髪の少女へと姿を変えた。
 法印術を使った時特有の力の動きを僅かに感じる事から、変身を解いたのだろうと推察する。先程までの姿は可愛らしいと言うべき容姿だったが、今の姿はどちらかというと美しいと形容する方が相応しいそれだった。首から下はあまり骨格的な変化は無く、あえて言うなら全体的にやや骨ばって、胸元が哀れなほど萎んでしまっている事くらいである。
「変身の術士か。目にするのは初めてだな……」
 グレンはそんな事を呟きながら、憮然とする少女をまじまじと見つめる。
 自分が所属するギルドに登録していない術士に出会う事も珍しいが、少女の美しさもまた稀有であった。
 シミひとつ無いすべらかな肌や黒髪の艶やかさ、黒瞳の煌めきは、このオーレスト皇国が誇る双美姫のそれにも劣らぬのではないかと思える程だ。
(いや……というか……)
 思わずテーブルに身を乗り出し、向かいに座る少女に顔を寄せる。
「な、何を……」
「――もしや、フェリシア皇女?」
 目の前の少女の顔は、姿絵で見た双美姫のそれと非情によく似ていた。

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