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ごった煮
気が向いた時に更新する箸休め的SS放り込みBlog。 二次は腐ってたりアンチしてたりもするので注意されたし。
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2025/06/18 (Wed) 22:07
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2013/05/29 (Wed) 18:12

 「剣」が砕けて
 心が砕けて
 それでも居なくなったあの子を探して島の中をふらふらと歩きまわって
 そうして門の傍に来たその時、起動の瞬間に遭遇して
 けれど、砂が耳元で波打つような、何かが焼き切れるような奇妙な音と共に周囲の景色が歪んで
 「先生!」と覚えのある声がして
 外套を引っ張られる感覚に振り返って
 泣きそうなあの子の、ウィル君の顔を見た瞬間
 
 視界が真っ白になった
 
 

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■01■ 再開は突然に ~ When is it now? ~



「うう……」

 小さな呻き声と共に意識を取り戻した少女は、頬に触れるジャリジャリとした感触と打ち寄せる波の音に訝しみ、数瞬の後に何が起こったのかを思い出して飛び起きた。

「ここはっ…………!?」
「ビャッ!?」

 ガバリと勢い良く上半身を跳ね起こした少女、ベルフラウ・マルティーニの視界に入ってきたのは、青い水平線と、白い砂浜、そして鬱蒼とした森林。
 覚えのない光景に、少女は暫し呆然とした。

「どこ……ココ……」

 ベルフラウは帝国有数の貿易商であるマルティーニ家の息女だ。
 女の身で名家であるマルティーニ家の跡継ぎとなるベルフラウの為に、父は出来る限りの事をしてくれている。唯一、家族として、親子としての触れ合いを除いては、という注釈がつくが。
 そうして娘が軍学校において良い成績を残せるように、と父が入学前の勉強の為に家庭教師を雇い入れたのは、つい昨日の出来事。
 軍学校を主席で卒業し、父が巻き込まれたとある列車のテロ事件を一人で解決したという『彼』と共に航船都市へ向かう為、乗り込んだ客船で起こった海賊からの襲撃。
 『彼』と共に逃げようとした所で、激しい揺れと波によって、投げ出された自分の身体。
 衝撃と共に冷たい水に全身を沈めた感覚。
 そこで意識が途切れ、気がついたのがつい先程。

「……そうだ、海に……」

 恐らく自分は海に投げ出された後、運良くこの浜に流れ着いたのだろう。
 どれだけ時間が経っているのかは分からないが、あまり衰弱した感覚がない事から、それほど長くはないだろう。気絶した事であまり水を飲まなかっただろう事も幸いだ。体調もそれほど悪くはない。
 そこまで考えたところで、はて先ほど自分以外の声らしきものが耳に入ってはこなかったかと気づき、首を傾げた。

「……『ビャッ』?」
「ビー……」
「…………」

 自分のすぐ傍、というか斜め下から聞こえた声にベルフラウは視線を落とし、そこに居た小さな生き物を視界に入れる。
 見たことの無い生き物だった。
 ゆらゆらと揺らぐ赤い炎に手と顔を付けたような姿。
 ギョロリとした目と、両端が蔓のようにくるりと巻かれた眉が特徴的な顔。人と似通っているかと言われれば、暫し考えて否と首を振るかもしれない。目と口は人間と同じ数だが、鼻が無いし肌の色もこれほど赤い人間は居るまい。
 しかし、可愛いかと聞かれたら愛嬌があると言えなくもない。人によってはブサカワに分類するかもしれないが。
 真っ赤な額の両端、人で言う米神のあたりには小さな炎が角のように飛び出してちろちろと揺らいでおり、鬼界シルターンの召喚獣の一種である鬼を連想させた。
 そう考え、はたと思い至る。
 そう、リィンバウムの生物とかけ離れた見た目の、自分の頭ほどの大きさのソレはまさしく。

「召喚獣……?」

 ベルフラウは内心で舌打ちした。
 何故すぐにそれに気づかなかったのか。
 召喚獣は様々な力を使うという。小さな身体であっても、身の内の魔力でもって一抱えもある岩石を呼び出す事もあると聞いた。彼らの力は決して、見た目で判断してはいけない。
 しかも、周囲が無人であるという事も、この召喚獣の危険性を高める要素だ。
 召喚士と誓約をして使役されている普通の召喚獣なら、それほど心配せずとも良いだろう。
 今のベルフラウは浜辺に漂着した資産家の令嬢であり、遭難した自分を保護して家に連絡するだけで礼を期待出来る。相手によほどやましい事情が無い限り、見ず知らずだろう自分に危害を加えるメリットは無い。
 だが、何らかの理由で主人たる召喚士を持たない召喚獣―――はぐれ召喚獣となったそれが相手である場合は、事情が
百八十度変わっている。
 野生化した生物は大抵において危険だ。
 それが不思議な力を持っているのなら、尚更。
 特に、召喚者から逃げて、誓約に背いて行動しているようなはぐれは、下手をすると誓約違反のペナルティである痛みと苦しみによって理性を失い、問答無用で襲い掛かってくる可能性すらあると聞く。
 目の前のコレがそういう状態であるかどうかは判別がつかないが、警戒はしておくに越したことはない。
 この程度の事を結論に出すまでこれほど時間が掛かるなど、やはり自覚していないだけで、相当に疲弊していたのだろう。
 ベルフラウはその小さな生き物から距離を取る為、視線を外さぬままゆっくりと腰を上げていく。
 しかし。

「ビビー」
「…………」

 その小ささや敵意の無いらしい事から、ベルフラウはふわふわと浮かぶ異界の生き物への警戒をひとまず解いた。
 よく考えて見れば、自分に何かする気ならば、問答無用で襲ってくればいいのだ。それをしないという事は、この召喚獣に害意は無いのだろう。
 と、考えた瞬間。

「……ビ!」
「!」

 炎で出来た顔、その表情がいきなり険しさを増した。
 そのまま身に纏う炎を膨らませ、分裂させるかのように大きな火の玉を生み出す。

「ひっ……!」

 勢い良く自分の方へと向かってきた火の玉に、ベルフラウは思わず目を瞑る。しかし来ると思った熱さはベルフラウの間近まで迫ったもののそのまま側を通りぬけ、数瞬語、何かが焼ける音と、絶叫する声とが後ろから上がる。
 驚いて目を開け、振り向いたベルフラウの目に入ってきたのは、焼け燻るゼリーが悶え苦しむ光景だった。

「…………」

 視線を前に戻すと、そこには得意げに胸らしき部分を張る火の玉。

「助けてくれた、の?」
「ビ!」

 どうやらそうらしい。

「……ありがとう」

 とりあえず礼を言った。
 しかし、よくよく改めて周囲を見ると、そうのんびりしても居られない事を理解する。
 先ほどの攻撃か、あるいは召喚獣の絶叫が切っ掛けか、周囲の空気が一気に変わった。
 近くから遠くから、明確に敵意を向けて先程とは違う個体のゼリー達が寄ってくる。
 その数の多さに、ベルフラウは思わず悲鳴を上げ。

「――――お前たちの相手は俺だ!」

 ベルフラウを助けようと駆け寄ってきた赤毛の青年が、その身を白く変えた。


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