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ごった煮
気が向いた時に更新する箸休め的SS放り込みBlog。 二次は腐ってたりアンチしてたりもするので注意されたし。
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2013/05/29 (Wed) 15:05

ククールが噂の『賢者』だと知ったとき、一行は大いに驚いた。
しかし、そのまま町の外に居たトロデ王とミーティア姫に引き合わされたものの、呪いを解けるはずも無い。

だが、トロデ王が名乗ったことで、ようやく一行を修道院へと連れて行く切欠が生まれた。

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******** 06: 愚者の狂想曲-1




「『古の賢者』……?」
「はい。トロデーンの杖は、7人の古の賢者が強大な存在を封じたものだと、何かの文献で読んだ覚えがあります。その末裔の一人が、この修道院の現院長であると」

そう説明し、もしかしたらオディロ院長が一行の旅や解呪の助けになる事を何か知っているかもしれないと教える。
案の定、こちらの大陸に渡ってからのドルマゲスの手がかりを失っていた一向はその話に食いついた。

修道院への道すがら、トロデ王にマイエラから手紙が届かなかったかそれとなく訊ねて見たが、知らないとの事だった。
どうやら、あの商人は間に合わなかったらしい。
内心で溜め息を吐きながら、修道院の扉をくぐった。

「……あ、ディケル。ちょっといいか?」

丁度通りがかった騎士の男を呼び止めて訊ねる。

「おう、帰ったかククール」
「ああ。院長に来客なんだが、御加減の方は大丈夫か?」
「どうだろうな……。団長ではダメなのか?」
「オディロ院長個人への用件なんだ」
「ふーん……」

男はククールの後ろに居る一行をジロジロと眺めた後、「団長に訊いてみな」と返して去っていった。
くるりとエイト達の方に振り向く。

「じゃあ、ちょっと騎士団長の所に行って訊いてくるので、お待ち下さい」

言って、ここで待っててくれと中庭を指し示す。
その意を察し、エイト達が頷く。

「分かった。……ところで」
「はい?」
「さっきの言葉遣いが素?」
「……まあ」
「僕らにもそれでいいよ?」
「……一応、お客様相手ですからそういうワケには」
「そういうもの?」
「はい」
「じゃあ、トモダチになってよ」

いきなりの発言に少し驚く。
積極的な明るい男だと認識していたが、強引だと修正する必要があるかもしれない。

「何言ってんのよエイト」と窘めるゼシカに「えー?だって有名人らしいし、仲良くなって損はないでしょ?」と返しているところからすると、『前』と同様、結構強かな性格でもあったようだ。
こちらとしてもマルチェロから要請があれば旅に同行するつもりだったし、それが無理でも、今後の為にも懇意になるつもりではあったので「…………まあ、考えておきます」と無難な答えを返す。

「前向きにお願いね!」

そう言ってククールの手を握り、ぶんぶんと振るエイトに苦笑を返した。




「院長に用、だと?」
「はい。トロデーンから来たそうです。その、杖を持った魔術師の事で院長に話を聞きたい、と……」

マルチェロの部屋で、ククールが相対する。
『ココ』では兄と仕事に関する事以外で会話をした事が無かった。
こういう時に、争っていないだけで、全然何も良くなっていないのだと実感する。
『昔』の自分の方が、向こう見ずで無知であった分、マルチェロとの接触に積極的だった。
他人行儀で慇懃な会話を少し寂しく思いながら、エイト達の院長への面会を申請する。
机に向かって書類を片付けていた男は、ククールの言葉に僅かに目線を上げた。

「トロデーンの、魔術師……? お前ではなく、院長にか?」

予知の件を耳にしてやってきたわけではないのか、と言外に訊ねてくる。

「杖が、院長の先祖に関係のあるものだそうで」
「ふん……。院長はまだ体調が優れぬ。数日は待って貰う必要がある」
「分かりました。ドニで待って貰うよう頼みます」

言って、くるりと背を向けて部屋を出て行こうとしたところに、声が掛かった。

「待て。祈祷の依頼が来ている」

その言葉に振り返ると、マルチェロは一枚の紙をこちらに差し出していた。
無言で受け取り、内容を読む。
アスカンタの郊外に住む貴族の家からだった。
依頼主としては『前』を含めても新規の相手だ。
名前だけは贔屓の人々の話で多少耳にした事があるが、あまり評判は良くなかったように記憶している。
しかし、それよりも。

「……訪問希望が……明日の昼過ぎ、ですか?」

随分と急だった。

「強引だが、その分寄付金の額が大きい」
「……でも、間に合いますか?」

書いてある住所は、アスカンタとパルミドとの中間に位置している。
徒歩ではアスカンタからでも丸一日掛かるだろう。

「早朝にアスカンタにルーラで飛んで、そこから馬を使えば間に合うだろう」

つまり、アスカンタで馬を借りても良いと言うことだ。
それに僅かに驚く。
マルチェロは金にうるさいだけあって、倹約も呼びかけていた。
その為、依頼主の所にはいつも徒歩や修道院の馬、若しくは乗り合い馬車で向かう事になっていた。
よって馬を借りるなら自腹を切るしかないのが常だった。
だというのにレンタルの許可が出るとは、余程大金を詰まれたのだろう。
机の引き出しから小さな皮袋を出し、ククールに差し出す。
チャリ、と軽い金属音が鳴るそれには恐らく旅費が入っているのだろう。

「……くれぐれも、相手の機嫌を損ねぬようにな」

妙に念を押すマルチェロを訝しみ、ハッと気づく。
もしや。

「……私の体を要求でもしてきましたか?」
「っ!」

息を呑む男の様子に、図星なのだと察する。
マルチェロが吐き捨てるように言った。

「……所謂成金だ。欲にしか目の行かない男らしい。『賢者』としての聖性など気にしていないようだな」

こっ恥ずかしい『賢者』の称号。
皮肉にも今まではそれがククールに神聖さという価値を与え、不可侵の壁を作っていた。
ククールも、マルチェロとの関係の修復をしようとしていたこともあり、女性相手でも手を出すどころか、口説くことすらろくにしていなかった。
マルチェロも知ってか知らずか、そういう行為は指示しなかった。
だから今のククールは、周囲にはどちらかと言うと色事に疎い方だと思われている。
なのに今更こんな事をさせるからには、恐らくは寄付金以外にも、何かがあったのだろう。
修道院へ何かする等の脅迫でもされたのかもしれない。

思わず吐かれた二人の溜め息が重なる。

「……逃げられそうなら、逃げても構わん」

憎い相手で、「いざとなったら顔と身体で稼がせる」などと言っていたとはいえ、本当に実行するとなるとさすがに初めての事でもあって多少負い目があるらしい。
あるいは、至って真面目な自分の行状ゆえに、『前』とは違い幾らか自分への憎しみが薄いのだろうか。
それでも望んでさせるワケではないのだという、それだけで、ククールは満足した。
してしまった。

「善処します」

そう告げ、一礼してきびすを返し、部屋の扉に手を掛けた所で、思い出す。

「ああ、そうだ。件の杖の魔術師は、道化師の格好をしているそうです。オディロ院長に面会に来る相手に紛れ込むかもしれないので、御留意の程、お願いします」

オディロ院長のお笑い好きは有名だ。
記憶しているオディロ院長の命日には、まだ暫く間があったが、念を押しておくに越した事は無い。

「……気に留めておく」

その言葉を訊いて、ククールは後ろ手に扉を閉めた。


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