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ごった煮
気が向いた時に更新する箸休め的SS放り込みBlog。 二次は腐ってたりアンチしてたりもするので注意されたし。
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2013/05/29 (Wed) 15:11

予知の力を持つ『賢者』
はるか昔にも、その力と称号を持つ者が居た。

若干八歳にして、闇の世界から魔神がやってくる事を予知した『神の子』エジェウス。
その血を継ぐ者はククールでは無いが、しかしその子孫とククールは同じ場所に住んでいた。

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******* 08: 火中の遁走曲




夜だというのに明るい空。
普段は静かな夜の修道院だが、今日は違った。
騎士や修道士、それに信者も、あたふたと右往左往している。
しかも、彼らに襲い掛かろうとするアンデッド系の魔物の姿も、ちらほらと見えた。

「か、火事! 火事だ!!」
「誰か、水を……」
「魔物が湧いているぞ!」
「どこから来たんだ!?」
「地下だ! 封鎖してあった地下通路を、誰かが開けやがった!」
「くそっ……、寝ているヤツらを叩き起こせ!」
「信者を避難させろ!!」

「…………」

その騒然とした様子に、身体を蝕む薬の影響も思わず忘れてしまう。

何が起こった
魔物が居るなんて、有りえない
記憶に無い
ドルマゲスの襲撃?
まだ早い
猶予がある筈だ

だが、それ以外の何がある?

そう、エイト達が既にこの大陸に渡っていた時点で、ドルマゲスがこの近辺に居た事は確実だった。
それを、記憶を過信し、深く考えなかった。
自分の周辺だけでも、『前』とは随分違うのだ。
その影響でドルマゲスの方にも何らかの変化があっても、可笑しくなかったのに。

「くそっ……!」

声が戻っていた。
だが、それに安堵する暇など無い。

自分の失策だ。
いや、失うような策も無い。
ただの無策だった。
どれだけ変わったと思っても、愚かさは『昔』と全く変わっていない。

ククールは舌打ちを一つ吐いて、キアリクを唱えた。
効果適用外なのか、敏感になった全身の感覚はまだ治まらないが、とりあえず痺れは完全に抜ける。
肌に触れる服の感触にすらぞわりと肌が粟立つものの、何とかこらえて人垣を掻き分け、オディロ院長の元に向かうべく駆け出していた。

人の流れに逆らい、奥へと進む。
魔物と戦う騎士達の間を走り、騎士すらも進むのを躊躇する、炎に包まれた橋を駆け抜ける。
院長の住居となっている別館の前では、エイト達が扉を開けられずに立ち往生していた。

「ククール!?」
「アンタ、仕事で出かけてるって聞いてたけど……」
「今、戻ってきたんだ。状況は?」
「中で何か起こってるみたいなんでがすが、扉が頑丈で開かないんでがす」
「窓を壊して入ろうかとも思ったんだけど、なんか妙に丈夫でさ……メラミで壊そうとも思ったけど、火が移ったら中の人が危ないし……」

どうやら、ククールの掛けた防御呪文がまだ効いているらしい。
しかし、マホカンタの方は切れていると判断する。

「……ゼシカ、ルカニを使って無いなら、使ってくれ」
「あ!」

どうやら補助系の魔法には思い至らなかったらしい。
少女が魔法を使っている間に、男性陣で要領を話し合う。

「じゃあ、魔法で脆くなったところで、一斉に体当たりだ」
「了解だ」
「合点でがす!」

こくりと頷きあう。
そうして、エイトがくすりと笑う。

「どうした?」
「いや……、こんな時になんだけど、ククールの口調」
「?」
「普通になってるな、って」
「あ……」

それにククールが何かを返すより早く、ゼシカから声が上がる。

「出来た! 皆、準備はいい!?」
「あ、うん……!」

その言葉に雑談を中断し、スカラの効果が相殺された扉へと突撃する。

「いくよ……1、2、3っ!!」

ドン!と音を立て、衝撃を受けた扉が軋む。
しかし、まだ扉は耐えている。

「クッ……もう一度だ!」

エイトの掛け声と共に、再び体当たりを繰り出す。
蝶番が歪んで壊れ、扉が自重で前へと倒れた。
そうして、階段の下に騎士が倒れているのを目にする。

「……! 大丈夫か!?」

ククールが駆け寄ろうとした所に、上から別の騎士達が落ちてきた。

「ぐあっ」
「うわああああぁぁぁっ」
「ぐふっ!?」
「!!」

倒れていた騎士の上に積み重なり、下敷きになった騎士はカエルのように呻く。
ククールは無言で騎士達に癒しの術を掛けてやった。
その間にエイト達はさっさと階段を上っていく。

「ククールか……すまない……」
「うう……、頼む……院、長を……!」

彼らの言葉に頷き、魔法を掛け終えたククールはエイト達の後を追って階段を駆け上がった。


ククールが二階に上がった時、丁度マルチェロが壁に叩き付けられた。

「だ……ん長!」

咄嗟にすら彼を兄貴と呼べなくなっている自分に気づき、僅かに愕然としながらもマルチェロの元へ駆け寄る。
顔を上げて部屋を見回してみれば、そこには武器を構えるエイト達と、眉を寄せて立つオディロ院長、それに空中に浮かぶ道化師が居た。
窓が割れているのは、恐らくそこから入ったからだろう。
ククールの腕の中でマルチェロが「……院長を……」と呻くように告げて気絶した。
エイトが「杖……ドルマゲス……!」と呟く。

道化師……ドルマゲスが、一同を見てニヤリと笑う。

「また邪魔者ですか。警備といい、館に掛かっていた守りの魔法といい、鬱陶しいことこの上ないですねぇ」

おかげで地下からここに来ることになってしまったし、とぶつぶつと呟く杖を持った男。
その言葉に、大体の事情を察する。
どうやら、ククールの言付けや魔法は、杖の封印がまだ強い事もあって、嫌がらせに留まらずそれなりの効果を発揮していたらしい。
その為にドルマゲスは、警備の居ない地下道を通ってここまで来たようだった。

「ようやく追いついたぞ!」

突然、皺枯れた声が部屋に響く。
見れば、緑色の魔物がいつの間にか部屋へと入ってきていた。

「おや、どこかで見た顔だと思ったら……トロデ王じゃありませんか」
「ドルマゲス! わしとミーティアを、城の者達を元に戻さんか!」
「くくく……」

対峙する一同。
その間に、トロデ王を庇うように老人が割って入る。
オディロ院長だった。
ドルマゲスが大仰に言う。

「おやおや、自ら死にに出てくるとは」

道化師の言葉に、オディロ院長はキッと睨み返した。

「神の加護がある限り、ワシは死にはせん!」
「ククク……それも予知ですか?」
「何?」
「その身に流れる血の力で知ったのでは? まあ、残念ながら今回はハズレる事になるでしょうが」
「何のことじゃ」
「おや……? ここに居るという予知の賢者は貴方では無いのですか? その身に流れる血の力かと思っておりましたが……」

ふむ、と顎に手を当てる魔術師。

「……お前の言ってる予知者ってのは、多分オレの事だと思うぜ?」
「うん?」

名乗りを上げるククールを今気づいたといった態度で見る道化師に、先制で攻撃魔法をぶつける。

「バギクロスッ!!」

ドルマゲスは油断していたのか、無防備だった。
当たると確信し、そのまま追撃を掛けようと次の呪文の準備をしようとする。
しかし、風の刃が男に触れるかというところで、杖が光って不可視の壁が生まれ、魔法を跳ね返した。
そのままククールに返ってくる魔法を、慌てて横に飛んで避ける。
跳ね返った魔法が壁へとぶつかり、壁にバツ印の傷がついて、砂埃が舞い上がった。
来るはずの魔法に思わず身を竦めていたドルマゲスも、杖が自分を守った事を理解してホッと息を吐いた。

「……やれやれ……危ないところでした」
「……くそっ!」

思わず舌打ちする。
咄嗟に杖が魔法か何かを発動したらしい。
やはりドルマゲスは媒体に過ぎないのだろう。
ならばグランドクロスを、と考えたところでハッと気づいた。
魔法戦では周囲に損害が出るかもしれない。
ましてや自分の得意とするのは風魔法等の範囲攻撃で、ここは狭い屋内だ。
炎や氷ほどには、攻撃対象が絞りきれない。
屋根が落ちて全滅なんて事も有り得るし、何より人が多すぎる。
見れば、エイト達も先程のバギクロスの余波で少々咳き込んでいるし、院長もトロデ王に抱えられるようにして守られながら、「ワシのダジャレ全集が~!」と魔法の巻き添えになった本を見て嘆いている。
……まあ、院長に怪我をさせるわけにはいかない。

(ならば―――…)

ククールはサッと周囲を見回し、床に落ちていたマルチェロの剣を見つけて拾い、構えた。

「はあっ!」

刺突を繰り出し、そのまま切り上げ、下ろす三連撃。
ドルマゲスはそれを杖で流し、払い、受ける。
やはり『修道士の自分』では相手に物理的な攻撃を与えるのは難しい。
だがあしらわれても諦めず、そのまま剣戟を交わす。

「ク、ククール……! そいつには呪いを解いて貰わないといけないんだけど……!」

殺しちゃわないでと焦るエイトに、道化師と鍔迫り合いをしながらとっさに叫び返す。

「コイツを倒しても、呪いは解けない!」
「え……!?」

エイトの驚く声でハッと我に返る。
そうだ、自分が『知っている』事で、ラプソーンに関する事は、あまり口外するべきではない。
少なくとも、ドルマゲスの前でそれを語るのは、ムダに敵の警戒心を煽るだけだ。
対抗策を練られたりしては面倒である。

「ふむ……その未来を見た、ということですか」
「……ッ教える義理は無いね!」

興味を持ったらしい魔術師にそう怒鳴り返し、魔力を込めて剣を振るう。
『はやぶさぎり』をしようとして、しかし二撃目の途中で剣を杖で打ち返された。
やはり、今の自分では剣でこの男には勝てない。
しかし、それでも時間を稼ぐくらいはしなくては。
そうすれば、どうにかして他の騎士がここに来るかもしれないし、マルチェロが目覚めて参戦すれば、あるいは逆転も可能かもしれない。
院長を逃がすのは、相手がテレポートの使い手である以上難しいのが辛い。

「……っ、さっさと降伏しな! 今ならここへ進入した理由の自供と、団長の拷問で許してやるぜ!?」

勿論、この言葉はブラフだ。
理由など、ここにラプソーンを封印した賢者の子孫であるオディロ院長が居るからだと分かりきっている。

「……クックック……どうやら予知者といえど、あまり詳しい事は知らないようですね」
「……見たいものを選んで見れる程の力があるワケじゃないんでね」

どうやら、自分の都合のいいように捉えてくれたらしい。
それこそがこっちの狙いだった。
意図した通りに解釈した道化師に、荒い息をしながら内心で笑う。
しかし。

「……ハァ……ハァ……」

やはり、記憶の動作に体が付いていかない。
たった数撃で息が切れる。
それほどまでに鈍い身体に、舌打ちしたくなった。
何とか反応できているのは、補助魔法の重ねがけに加え、皮肉にも出向先の貴族に盛られた薬によって、感覚が常より鋭敏になっているからだ。
しかし、その薬によって敏感になった感覚が、神経をすり減らしてもいる。
擦れる衣服が与える刺激が、足の付け根の自身へと伝えられ、足捌きを常より更に鈍らせる。
潤む瞳が、視界を歪める。
今の自分は、きっと戦場よりも寝台で見せるのが似合いな表情をしているに違いない。
というか、自分が接近しすぎている為に中々手出し出来ず、観戦に回っているエイトやヤンガスが、妙にモジモジしているのは気のせいだろうか。
心なしか、ゼシカも少し顔を赤らめているように見える。
しかし、体の線が見えないローブを着用していたのが救いだった。
『以前』のような騎士服であったなら、そしてこんな場面で興奮に立ち上がっている自身を見られたら、きっと自分は恥ずかしさで首を吊ると自信を持って言える。
そうこうするうちに再び鍔迫り合いになり、ククールとドルマゲスの互いの顔が近づいた。
ニヤニヤと笑っていた相手が何かに気づいたらしく、ふと眉を寄せる。

「ん……? 貴方から漂うその香り……ウドラーの新芽とサクラン草とカンバナ……? ……媚薬か何かですか?」

その言葉にぎょっとした。
魔術師には、薬草やその薬効にも通じる者も居る。
ドルマゲスも賢者の末裔に弟子入りしていた身、吐息に混じる薬の香に気づいたのだろう。

「黙りなっ!」

とっさに刺突を繰り出す。
余計な事を言わせるワケにはいかない。
しかし、感情に任せたその大振りな突きが致命的だった。
杖からイバラのツタが生まれ、ククールの身体へと向かう。

「う……わっ……ぐっ!?」

湧き出たツタの波がククールを押し流し、勢いのまま壁に叩きつけられた。

「っククール!」
「……っオレより、院長を……!」

駆け寄ろうとしたエイト達を制する。
見れば、ドルマゲスは今にもオディロ院長に肉薄せんとしていた。
とっさにゼシカがムチを振るう。
跳ねるムチが、ドルマゲスの持つ杖へと撒きつき、動きを阻む。
しかし、それでもその勢いは完全には殺せなかった。

「うぐぅ……!!」

呻き声が部屋に響いた。
杖の先が院長の身体を刺し貫く。
その瞬間が、何故かとてもゆっくりと感じられた。
杖が老体から引き抜かれ、オディロ院長が床へと倒れたところで、時間の流れが戻る。

「院長――――!!」

ククールの絶叫が部屋に響いた。

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